今回は競馬をやる皆様にとってあまり聞こえのいい話ではない。そう、大きな馬券を当てた後にやってくる税金の心配についての話だ。幸いなことに私は、ここ数年泣きたくなるぐらいに馬券が当たらないので、いらぬ心配にはなるのだが、あらかた情報が出揃ってきたので少しまとめてみる。
馬券の払い戻しにかかる税金に対する裁判
ここは皆様ニュースなどで聞いたことがあると思うが、簡単な経緯とどのような判決が下ったかを説明してみようと思う。
大阪の卍氏の場合
書籍(馬券裁判 競馬で1億5000万円儲けた予想法の真実)やTwitter などでご存知の方も多いかと思うが、おそらく一番騒がれた馬券裁判の主である。
数字は情報元によってまちまちなのだが、共通して「馬券収支で1億5千万円以上の勝ちがあった」と書かれている。勝ち分が1億5千万なのに対し、 課税額が追徴金を含め10億円近くになるというとんでもない話が話題になった。
この方は最高裁まで争い、2015年3月、見事馬券収入が雑所得であるということを国に認めさせた。ただ、この時の判決の判断基準がこの後大きな波紋を呼ぶことになる。
またまた大阪、の公務員さんの話場合
寝屋川市の固定資産税課の公務員さんが競馬の収入を隠していたとして所得税法違反罪に問われた裁判が行われた。
この件は win5を複数回当てたとされる公務員さんが、その収入を隠していたため訴えられた事件。この方は 追徴課税分も含めて9000万円を支払い済み。これが認められ第一審では執行猶予付きの判決となった。
昨年11月に行われた、第二審でも判決は覆らず、控訴は棄却されている。

この方の裁判の争点は所得の扱いの話ではなく「国税がどのように公務員さんの収入を知り得たのか」というところと「全員から取れないのに特定の個人に課税するのは平等ではない」という点から刑事罰は理不尽か否か、という点に焦点が絞られた。

北海道の公務員さんの場合
この北海道の方は競馬ソフトを使わず手動で馬券を買っていたにも関わらず、72億7000万の馬券を購入し5億7000万の利益を上げていたというただの天才である。
先述した卍氏の裁判の影響から、この時点では「競馬ソフト等を用いて自動売買を網羅的に行う」事が一つの雑所得と認められる条件であった。
が、この天才は そのようなことはせずとも雑所得に認められると言う最高裁判決を2017年12月にもぎ取った。
おそらく弁護士も天才だったんだと思う。

さて個人的に思うのが、自動投票を使わずに6年間といえども72億円の馬券を個人で買えるのかと言う点が疑問に残る。このことから、次の話を思い出してほしい。
データ分析会社ユープロの場合
ユープロとは香港に本社を持つ社長がイギリス人の会社である。
一時期東京のウインズに外国籍の方がプリンターを持ち込み、マークシートをゴリゴリプリントして手分けして大量に馬券を買い込んでいると言う話を聞いたことがある。
これが160億円の所得隠しで追徴課税として60億円請求されていたそうだ。
だが強制捜査に入った時には社長は資産と共に海外に逃げ込んでいて、差し押さえられたのは20億円だけだったという話。これが2008年の話だ。
この時と同じ空気を先ほどの北海道の公務員さんには感じる。
1レース1レースを大きく張ればそれぐらいできるのかもしれないが、なにぶん大きな馬券を買ったことがないので想像もつかない。

横浜のほはてい氏の場合
こちらも有名なほはてい氏の件。おそらく個人の馬券裁判としては一番最初にネットで騒がれた案件ではないかと思う。
ほはてい氏の場合は、3年間事業所得として申告していたものが、後から一時所得として申告し直せと通知が来たことが発端。ほはてい氏は隠していたわけでもなんでもなく、 最初から事業所得として申告していた。にも関わらず、申告時点では通っていたものが3年後に掘り返されるという事態になっていた。
3年間馬券の稼ぎを事業所得として確定申告してきましたが税務調査で一時所得として修正申告しろと言われていました。ただ、額が大きいので国税に問い合わせているとの話でした。
今日税務署から国税からの「一時所得として修正申告せよ」との回答があった旨、電話があり茫然自失。
不服申し立てはするつもりですが、恐らくこちらの主張が通ることはなく、数千万の課税額になると思われます。
2018年の8月に最高裁への上告を受理されず残念ながら敗訴となっている。個人的にはものすごく応援していた方だった。
馬券で負けているのに課税されている馬主さんの話
先述のほはてい氏のブログに記載されていたとんでもない話。ほはてい氏の裁判に証拠書類として提出されたもののようだが、馬主さまで馬券に負けているにも関わらず課税され、それが裁判でも覆らなかった例である。
原告は3年ともマイナスなのにその払戻金に課税され、訴訟を起こしましたが敗訴しました。おそらくは税務調査の中で通帳を精査された結果、課税に至ったのだろうと思います。
競馬ファンへの影響力を考えればこの裁判の方が大きいと思われるのになぜ詳細が報じられていないのでしょうか。
判例を振り返って
時系列で並べてみる。
2008年に株式会社ユープロが強制捜査を受ける。これはユープロの社長が国外逃亡しているので、国税が試合に勝って勝負に負けた形。
2015年に卍氏が雑所得で外れ馬券を経費とみなす判例を作った。
ただしこの時点の解釈では、「自動投票プログラムなどを使い、網羅的に、反復的に」というのが大きな要点であった。
2017年に北海道の公務員さんが、「自動投票プログラムを使わず手動で」雑所得とみなされる判決を勝ち取った。
2018年にほはてい氏が最高裁にて上告棄却。 一時所得とみなされる結果になってしまう。
同。2018年。大阪の公務員さんが「国税の違法捜査」と「税の不平等」を主張し刑事罰の取消しの訴えを起こしたが、現在高裁で敗訴中。上告するかどうかは不明。
ここまでで大事なのは。全員が全員馬券で得た収益は課税対象であることは認めていること。争点は刑事罰の軽減であったり、雑所得とみなして外れ馬券を経費に含めるかどうかという点にあった。
雑所得に含まれるかどうかという点は非常に大事な問題で、一時所得であるとみなされてしまうと多くの競馬ファンに(仮に収支がマイナスだとしても)納税義務が発生するのではないかと考えられる。
なぜ一時所得ではだめなのか
雑所得は外れ馬券も経費として認められるため純粋な勝ち額が課税対象となる。
一時所得では負け分が経費にならないどころか、その馬券一点に当たる買い目の金額しか経費と認められない。
わかりやすいように極端な例を挙げてみよう。
三連単全通りボックスで例えば4000通りほど買ったとする。
1点100円なので購入金額は40万。この馬券が当たり、50万の払い戻しとなった。
この時、勝ち分は10万ではあるが、払い戻しの50万からその的中馬券の買い目の100円を引いた、499900円が所得の対象となる。
ちなみに、ここを勘違いしている人が多いのだが一発で大きな馬券を当てない限り大丈夫、ではない。一年を通じての払戻金が所得の計算対象となる。
つまり負けていようが一定以上の払い戻しがある人間は納税の義務が発生する。勝ち負けは関係ないのである。
これが雑所得であれば負けてる人は払わなくていい。
だが、一時所得であれば負けていようが、オケラ街道を歩いてる最中だろうが、ある程度の払い戻しがあれば確定申告し、納税しなければいけない。
なので、雑所得と一時所得の違いが裁判になるのである。
ちなみに、私がフォローさせていただいている方のリツイートで、WIN5を度々的中されている方を知る機会があった。
その方は大口の的中分だけを挙げて納税額を計算し確定申告する、とツイートされていたが、本当のことを言うとそんな甘い物じゃないのではないかと思う。
全的中分を出さねばならんので、大口だけ申告するのは非常に危ない行為じゃないかと。
いくら以上で申告しなければいけないのか
例えば年間を通して120万円の払い戻しがありその払い戻しを得るために20万円分の買い目が発生していたとする。
120万ー20万=100万
100万ー50万(控除)=50万・・・一時収入。
50万÷2=25万・・・一時所得。
この一時所得が20万以下でであれば確定申告は不要となる。
給与の収入金額が2,000万円以下で、かつ、1か所から給与等の支払を受けており、その給与の全部について源泉徴収される人で給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下である人等、一定の場合には確定申告をしなくてもよいことになっています。
つまり逆算すると全払戻金 - 当たり馬券の購入金額が90万円以下であれば確定申告は不要となる。(上記引用の内容が合致する人)
浅田会計事務所様の解説がわかりやすい。

どの程度の金額が税金として発生するかは、高額配当を得た須田鷹雄氏のブログが詳しい。
浅田会計事務所様は馬券訴訟の話も触れておりこちらもわかりやすい。ぜひ一読してもらいたい。

国税はどう情報を知り得たのか
先ほどの例を振り返ろう。
株式会社ユープロは、会社なので比較的簡単に見つかったんだと思われる。同様に負けているのに課税された馬主さんも、口座情報提出の機会があったのではと思われる。
卍氏は、「2chで当たり馬券を公開した」や「FXでの負け分を申告した」とも言われているが、定かではない。実際両方目につきそうではあるが。
ほはてい氏は事業所得として申請済みであった物を国税が手のひら返したため。
大阪の公務員さんは裁判の争点となっているが、国税が他の名目で銀行を調査している時に目にしたデータを持ち帰った、「横目」と呼ばれる違法捜査であるという指摘がある。

この「横目」という手法が問題で。違法であるとはいえ、何かの拍子にすべて洗いざらい調べられてるかもしれないので、確定申告しないリスクは常にあると考えられる。
また、実態は知らないが起業している方には税務調査というものも存在するらしい。
つまり、黙っていようが、通帳を埋めようが、国税には補足手段はある、ということになる。
この記事も参考になった。
ではどうすればいいのか
正直、勝っても負けても課税対象になるというのは理不尽感が拭えない。全面的に納得してるわけではないし、非常に腹が立っている。
また、窓口払い戻し組は補足できないというのも不公平感が拭えない。
今簡単に考えられる対策としては三つ。
一度も勝つ瞬間を味わわずに完封負けする
ぐうの音も出ないほど納税の義務が発生しない方法。最近私がこれである。辛い。非常に辛い。
大きく勝って素直に納税する
先ほどの須田鷹雄氏のブログにあったように、納税額はそれほど高額ではない。大体1/4程度に収まるとのこと。 なので、大きく勝ったら素直に申告するのが一番いい。
ただ、年間累計1000万購入の1000万払い戻しみたいな人は収支トントンでも250万ほど課税されるということなので、これはこれで切ない。
マメ券で遊ぶ
どんだけ当たっても90万に行かないようにすればいいじゃん。てのも一つの方法。というか本音を言うと、これ以外に無事に過ごす方法は思いつかない。
おまけ)この辺の問題を公約にあげてくれた政治家に投票する
現実的じゃないね。競馬ファンの気持ちを一身に受ける政治家。いないか。
まとめ
とても気持ちがまとまらないのだが、心を殺して淡々と書いていくとこういうことになった。
これがどうなんだろうという気持ちは当然あるんだが、歯向かって痛い目にあう根性は今のところ私にはない。歯向かう理由ができるほどの当たり馬券も私にはない。どちらかと言うと後者の方が大きな問題ではある。
競馬ファンの皆さんには何一つ楽しい話ではないが、やはり知らないと危ないこともあるので書かせて頂いた。
私は法律の専門家でも会計の専門家でもないので、 間違っているところは多々あると思うが都度指摘して頂けると助かる。では最後に参考にさせて頂いた記事を紹介して、今回はこのあたりで。
参考文献
この一連の問題にはこの記事が国税の動きにも触れつつ、よくまとまっており読みやすい。

その国税は、このようにわざわざ競馬名指しで記載している。
この件に対するパブリックコメントは公開されているので、是非国税の詭弁も確認してほしい。
また JRA もこんなあっさりとしたコメントを出している。お前はもっと熱くなにか書く必要があるだろう。
こいつらほんと、どうにかならんのかな。
誰が消費者の方向いてくれるんだろうか。
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